鍾乳洞

 子供の時の最もエキサイティングな体験は、夏休みに初めて「入水鍾乳洞」に入った事でした。入り口は大人一人がやっと通り抜けられる大きさ。しかし中に入って見るとそこには初めて見る全く別なもう一つの世界がありました。正にジュールヴェルヌの「地底旅行」でした。

 足が滑らない様に草鞋を履き、太く長いロウソクには熱い蝋が垂れて来ない様に新聞紙を巻いていました。思わず声を上げたくなるくらいに冷たい地下水の中を大人と一緒に進んで行きます。四つん這いになってやっと進める所もあれば、時には自分の首の辺りまで地下水に浸かる事がありました。急に視界が広がったと思ったら何と地底の中で滝が轟々と流れ落ちているではありませんか!そして上や下から生えている様々な形の鍾乳石が実に美しかった。私は余りのショックで、その後は暫く鍾乳洞の絵ばかりを描いていました。何しろ鍾乳石などは自分のイメージで自由に描けますからね。

 今そこに行ったとしても子供の時と同じ様には感動しないと思います。何よりも今はあの地下水の冷たさに耐え切れずに直ぐに戻って来てしまうと思います。